テクノ・サイエンスローカル代表 小宮山美弘の執筆原稿

●連載4 奄美を食べて健康になろう 
           スモモの持つ特性とその機能性を見る●
               (食品工業 平成22年5月30日号)


 1.スモモの来歴と生産量
 スモモはバラ科の果実に属し、ウメやアンズと同じスモモ亜属に分類されるが、非常に多くの種類を含んでいる。 形態的には果実の中心に核を持つ核果実に分類され、日本では2007年度の統計で、栽培面積は約3,885ha、生産量は2万1,900トンであるが、 世界では2005年において930万トンに達し、果実の中では世界の第8位を占めている主要果実である。 原産地は東アジア、ヨーロッパ・アジア西部および北アメリカの3系統に大別され、日本スモモは東アジア系のPrunus salicina LINDL.,である。 国内主要産地は山梨県であるが、現在その多くは、東アジア系と北アメリカ系の交配品種やさらにこれらが交配された高級品種が主流を占めている。 早生種の”大石早生”、晩生種の”ソルダム”、”太陽”といった品種が主要品種で、高級品種としては”貴陽”や”秋姫”といった新しい品種も開発されている。 過去に主要品種であった”サンタローザ”は激減している。
 一方原種に近い品種も栽培されており、多くは減少の一途を辿っているが、その中で、地域集約的に栽培されているのが鹿児島県奄美大島の特産スモモ「花螺季」(カラリ)である。台湾原産で、赤色が非常に濃く、国内で最も早く収穫される品種で、100haに及ぶ栽培面積を維持している。

 2.スモモの風味の特徴
 スモモは多酸系果実に分類されるが、香りは少ないものの、爽やかで、刺激的な味を持つリンゴ酸が主要酸であり、 収穫期では1%以上含まれている。他の果実にはあまり検出されないキナ酸やシキミ酸を含んでおり、独特な酸味を呈する。 糖分はショ糖が主要構成糖で、少ないものでは5〜6%、多いものでは15%以上になるものもある。 これらの構成成分から、甘酸っぱい味がスモモの特徴で何とも言えないが、収穫期によって味のバランスが大きく変わる。 また遊離アミノ酸のうちアラニンやグルタミン酸も成熟過程で増加し、完熟期には顕著に多くなり、バラ科であるスモモの中では、 ブドウ以外の果実では見られないプロリンを特徴的に多く含んでいる。

 3.健康増進のための各種機能性について
 このような特徴を持つスモモは数々の健康に良い機能性に富んだ果実としても注目されている。 主要酸であるリンゴ酸は、人の疲労に重要な役割を示すエネルギー獲得回路であるクエン酸回路の重要な有機酸であり、 疲労回復に大きな効果を有する。
 子供の成長に必要なビタミンEや葉酸はカロリー単位(100kcal)で比較すると、牛乳の10倍以上も含まれる。 このビタミンEは女性に多い冷え症の予防にも効果的である。また、スモモの食物繊維は便秘を改善し、ダイエットにも効果があるとの報告もある。
 動脈硬化や心臓疾患に効果があるポリフェノール類も非常に豊富である。ポリフェノールのこの効果は、米国で発刊されたフレンチパラドックスにより、 赤ワイン中のポリフェノールがフランス人の高脂肪摂取の食習慣にもかかわらず、虚血性の心臓疾患を低減化させることが明らかになり、 一躍赤ワインブームが起きたことで知られている。 血管中に蓄積する悪玉コレステロール(低密度リポタンパク質、LDL)をポリフェノールの抗酸化作用で低減化させることが多くの研究成果で明らかになり、 このことにより動脈硬化のリスクを減らすことが判明している。 スモモを用いて調べたポリフェノール含量や抗酸化活性値も他の果実に比べてかなり高いことが明らかにされており、 こうした疾患に大きな効果をもたらすことが期待されている。
 高血圧症における血圧上昇は、これまで塩分中のナトリウムの過剰摂取によることが原因とされ、日本人が好む漬物や味噌・醤油といった発酵食品では低塩化が加速されてきた。一方で果実に含まれるカリウムは血圧を下げる作用があり、スモモは他の果実と同様カリウムが豊富で、ナトリウムは微量であることから血圧の上昇抑制には効果があると言える。 これに対して高血圧症を生理科学的な要因からその原因を明らかにした研究結果も報告されている。 こらは血圧上昇の引き金が生体内のアンジオテンシン変換酵素の活性化によって起きることである。 最近行われたラットを用いた実験では、スモモにはこの酵素活性を著しく阻害する効果があり、血圧上昇抑制が証明されたとの報告がある。
 骨粗しょう症は骨の中のミネラル量の指標である骨密度が減少し、骨折しやすくなる病気であるが、 スモモのポリフェノールとカリウムを多く摂取することによりそのリスクが軽減されることがイギリスの調査から明らかになっている。 さらに最近特に話題になっているアレルギー症状の緩和にも効果が期待されている。
 このような効果からスモモが健康を維持するためのマルチ的な効能を持つ果実として注目されてきている所以と言える。  

 4.食品加工等への応用
 ジュースやジャムへの利用は、爽やかなリンゴ酸を含むが故に加工品としては大いに期待されている。 また、数々の健康機能性を有する素材として、菓子類や調味料あるいはリキュールへの利用にも最適である。 フルーツワイン醸造への応用も大いに期待されているが、これまでの研究結果と嗜好性から酸を減らす工夫が必要であり、 選抜した酵母によりその試みがなされている。 また、こうした加工品では、視覚的な嗜好も重要であるので、数ある品種の中でも、赤色系の”ソルダム”や”花螺季”は最も加工適正が高いと言える。 この赤色は、ポリフェノールの一種のアントシアン色素であり、非常に濃厚な赤色を示す。 特に”花螺季”は国産スモモの中では最も濃厚な色素量を含み、イチゴのアントシアンに比較しても安定性も高いので、 加工適正の面からも利用価値は大きいものと思われる。 果汁やジャムはもちろん、ドレッシング素材、その他丸ごと果実に糖液に浸透させた土産品的な糖菓や機能性成分を含む化粧品への応用等 幅広い加工品への応用の可能性も期待されるところである。

参考文献
1) 辻 政雄・小宮山 美弘:日食保誌、359 (2008)
2) 小宮山 美弘・辻 政雄:日食保誌、37 (2009)
3) 田中 敬一:果実日本、vol.62,31 (2007)
4) 小宮山 美弘:果汁協会報、488,18(1999)