テクノ・サイエンスローカル代表 小宮山美弘の執筆原稿

●技術開発導くもの 人材生かせる環境を● 2007.11.10 (朝日新聞)

 長い間、科学技術を糧に山梨の地域産業の振興にかかわってきて思うことがある。 官民問わず素晴らしい発明や技術開発はもてはやされるが、 そのプロセスには関心が及ばないということだ。

 成果が得られなければ「君たちは長い間、無駄飯を食っているのか。何もしていないのと同じだ」と 厳しい批判を受ける。 科学技術は小さな積み重ねと努力が実って大木になるものであり、短時間で成果が出るものではない。 手品のように次から次へとびっくりするようなものは生まれてこない。 期待した成果が得られないからといって、切り捨てると有能な人材は居場所を探して どんどん流出していく。 オンリーワンを作っていくには忍耐と理解が必要だ。

 かつて某国営放送が放映した「プロジェクトX」という番組が好評を博した。 逆境を乗り越え、技術開発やプロジェクトを成功させた物語で、感動した人も多いと思う。 しかし成功の裏には、強い使命感と内なる心からわき出てくる情熱的な思いを持った人材が必ずいるものである。

 CDやロボット「AIBO」の開発メンバー天外伺朗氏の著書「運命の法則」の中では、 こうした思いを内発的報酬と呼び、成功には不可欠のようだ。 金銭や地位などの思惑が絡んだプロジェクトへの取り組みを外発的報酬とし、 不成功の典型としている。 要は人材を活用できるか環境の形成が最も大切なのである。

 国は現在、科学技術創造立国を掲げ、予算を増額して研究開発を促進させている。 だが実態はといえば、日夜お金の獲得競争になっており、外発的報酬のための研究となっているものも多い。

 山梨県は科学技術分野において不毛の地という人もいる。 そうした面もあるかもしれないが、県外に出て大活躍している著名な方も少なくない。

 アフリカや中南米にみられる感染症にオンコセルカ症がある。 この患者に効く抗生物質を発見したのは、北里研究所の大村智所長である。 国内外の数々の栄誉を受けた山梨が誇れる研究者である。

 ある雑誌の、大村氏の回顧録によると、 「山梨は田舎だから、もう一度東京へ行って勉強しよう」と思い、上京したという。 その後、想像を絶する努力により業績を上げた。 田舎の意味するところは研究や技術開発を行う環境に乏しかった、ということであろう。

 研究者や技術者には本来地域性などというものはない。 科学技術には県境も国境もない。 それでもなお山梨を思い、地域のために日夜努力している者もいる。 山梨を拠点として中小企業や各地域を走り回って感ずるのは、そうした人材を大切にすることこそが 山梨の科学レベルを高め、競争力ある産業の創出につながるものだと思う。