テクノ・サイエンスローカル代表 小宮山美弘の執筆原稿

●若い力の挑戦 ワイン王国への結集を● 2007.10.06 (朝日新聞)

 8月25日、甲府市内で開催された第五回国産ワインコンクール受賞ワインの公開テイスティングに参加した。 出品575点の中から金賞10点が選ばれたが、県産ブドウを使用し、受賞したワイン3点のうち、 甲州種白ワインとカベルネソーヴィニヨン種赤ワインの2点は甲州市勝沼町の30代の若い醸造家のワインであった。 この2人は調合という意味の仏語「アッサンブラージュ」というグループメンバーでもある。 会場での笑顔は輝いていた。

 今から7年前、私が勝沼町にある県立ワインセンターから異動するにあたり、 何か業界に残せるものはないかと思い巡らしたとき、人材育成が最も大切ではないかと考えた。 当時20代の地元小規模ワイナリーの後継者7人に声をかけグループを組織した。 2年ばかり運営のお手伝いをしながら真剣な勉強会が続き、その後は彼らの自主運営に委ねた。

 銀賞の最高賞であるカテゴリー賞を獲得したのもグループの一人だった。 国内各地や、フランスをはじめとした海外でも勉強した、将来の山梨のワイン産地をリードする若者たちである。 既成の概念を大切にしながら新しいもの作りへ挑戦している彼らに称賛を贈りたいと思う。

 ワインはブドウから造るので1年に1回の仕込みしかできないし、 伝統的な産業であるので、保守的な取り組みが先行する。 こうした中で悩み、議論しあった創造力豊かなグループの活動の成果の証しではないだろうか。

 江戸時代末期の学者で佐久間象山を育て、その弟子である勝海舟や坂本龍馬といった時代の変革者に 大きな影響を与えた佐藤一斎は「得意と失意」という言葉を残している。 「平常得意なことが多く、失意のことが少ないと、真剣に考えることがないから実に不幸である」。 さらに「得意のことが少なく、失意のことが多ければ、まずいことをはねのけようと種々思いを巡らすので、 知恵や思量が増えていく。これ幸いである」という。 苦しいころや困難なことに立ち向かい、悩み苦しむことによって未来が開かれるものである。

 今、山梨はワインの仕込みの真っ最中である。 各ワイナリーはやり直しができない醸造作業に、また見学者の対応にてんてこ舞いだ。 こうした中で、甲州種のワインに対する将来や、年ごとの気温上昇による醸造用ブドウの産地としての 非適地化への悲観論に嘆く関係者も少なくない。 しかし、嘆いたところで解決策が生まれるわけでもない。 こうしたときこそ、志も高く、夢を持った若者たちの意見を大いに聞き、 積極的に取り入れ、知恵を絞って未来のワイン産地山梨について議論し、 新しいワイン王国を築き上げていって欲しいと願っている。