テクノ・サイエンスローカル代表 小宮山美弘の執筆原稿

●賞味期限 食料をもっと大切に● 2007.9.08 (朝日新聞)

 食の安全、安心への関心が高まっている。 北海道のブランド菓子の賞味期限の偽装問題は、企業側に全面的な責任があり、非難されて当然だ。 だが背景には、行き過ぎた競争や情報化社会が生み出した問題が潜んでいることを忘れてはならない。

 賞味期限は「定められた方法により保存した場合において、 期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限」と法律で定義されている。

 実際に、どのようにして決めるのか。 科学的試験もするが、多くは人の五感による官能試験でおおよそを決め、1以下の安全係数を乗ずる。 係数は個体差や特性で決められるが、流通環境や消費者、流通業界の時代動向も加味されており、 必ずしも科学的ではない。 3か月以上の賞味期限には月単位の表示でいいことが物語っている。

 賞味期限は、短いほど鮮度が高く、おいしく、安全であろうという消費者意識も大きな要因である。 こうした背景から、1年以上品質が保持されるモノであってもそれ以下の表示になるのが実態であるから、 期限自体には目安程度の意味もないと言えるかもしれない。 それを最も認識しているのが企業自体であることに根深い問題がある。

 特に安全性は、科学的根拠に基づいた確率論であるべきだが、 世論を騒がせている安全性は、安心というつかみどころのない心理を含んでいるから厄介である。 これらの事件を企業モラルの欠如と断罪処理することは法律論として当然でも、 技術者としてはいささか納得できないものがある。

 長年、県内の中小企業食品産業を技術指導してきたが、 非科学的要因で賞味期限の短縮化を迫られ、経営が圧迫される現状を見るにつけ、 苦慮してきた一人である。そして、おいしいのに、賞味期限切れの商品がこともなく廃棄されてしまう。

 家庭からの食料廃棄物だけでも年間推定一千万トンを超える日本。人の平均摂取カロリーから単純試算で、 世界の飢餓人口八億の3〜4%ぐらいは救えるという矛盾を抱えている。 カロリーベースで先進国中最低の食料自給率の日本で、ついに40%を下回ったとの報道を先頃聞き、 将来の食糧問題に危機感を持つ一人である。 グローバルな視点から賞味期限のあり方を議論し、考えるべきであろう。 ちなみに山梨県の自給率は20%、全国38位である。

 6月、私が会長を務める県食品技術研究会の講演会で、 おいしさ評価の専門家である京都大学の伏木先生は テレビや新聞、雑誌、そして表示などの情報によって、おいしさが大きく支配されている」と、 自らのおいしさや品質を判断しなくなった日本人の食志向のゆがみを鋭く指摘した。