テクノ・サイエンスローカル代表 小宮山美弘の執筆原稿

●誘致と人材 故郷への思い共有を● 2007.6.23 (朝日新聞)

 地域活性化に企業誘致や有能な人材活用は欠かせない。 その推進には山梨出身で、全国的に活躍している方にお願いする場合も少なくない。
それ自体は大いに進めるべきであり、実際に誘致企業の社長のルーツをたどると山梨県出身者も多い。

 本人にとってみれば、故郷の活性化に貢献でき、故郷にも錦を飾ることにもなる。 前向きに取り組み、実現させたい思いに駆られるに違いない。

 一方、こうした手法は、故郷を思う心を頼みにしてお願いすることになり、 企業としてもそれなりのリスクを負うことになる。 誘致企業の幹部は県外出身者で占める場合も多く、仕事以外に地域の生活文化や慣習になじもうとする苦労も多いようである。

 思わぬ地域との「差別感」を味わうこともある。

 先日、コンサルティングを依頼された機械設計・加工関係の企業は誘致された企業で、 しかも社長は山梨県の出身であった。仕事を終えた雑談で、
「本社が山梨にないという理由で、県の技術支援が受けられないんですよ! こんな例は聞いたことがない」とおっしゃった。
「私どもは、県の強い要請で来たんです」と精神的に強い差別感を持たれたようだ。

 制度の問題はあるにしろ、疎外感はこんなことから生じてくるのである。 誘致した側は「特別な優遇措置を講じたのだ」と言うだろうが、 誘致しておいて県内に本社のある企業と差別的な扱いを受けたら、 そんな気持ちになるのも無理らしからぬことである。

 地域の地場産業の育成は大切であるが、グローバル化が一層進んでいる時代に閉鎖的といわれても致しかたない。 こうした保守主義的な施策が、地場産業の成長を促すとも思えない。

 また、誘致企業の中には企業倫理の優先より海外移転など、県外への展開を余儀なくされる場合もある。 これでは、逆に地域住民に不信感を持たれてしまいかねない。

 近年、誘致企業に前例のない補助金を拠出して支援している自治体も多くなっている。 要は共にリスクを分かち合い、公共感の中で地域発展のため運命共同体になる覚悟が必要ではないだろうか。 県も新たな誘致施策を打ち出しているが、こうした企業に「心ここにあらず」という思いを助長させてはならない。

 人材活用についても同様だ。 育んだ貴重な経験を故郷で生かせるのはこの上ない喜びであるが、 各種のアドバイスもどこか冷ややかで自慢話として聞く人も多い。 その心を受け止め、実践しようとする思いが少ないような気がする。

 貴重な意見やアドバイスが生かされていない、と落胆されるのを聞く度に、 寂しく思うのは私だけであろうか。