
サビ止め?
もうかれこれ20年以上前に、うちの鍛冶屋で働いていた人の話し。
まだ、センムが小学生だった頃、シャチョー(父親)から『こいつには近づくな!』と言われていた職人がいた。
その人のあだ名は“ゴリラ”。やたら豪快な人らしく、鉄をも曲げそうな勢いで仕事をしていた。
鍛冶屋では“サビ止め”が必需品。“サビ止め”はだいたいレンガのような色をしている。
職人たちの作業服は、あちこちに“サビ止め”がついて、知らない人が見るとまるで血のりがべったりと
ついているように見える。
ある日、そのゴリラのズボンにべったりとサビ止めがついていた。本人も、他の職人もお昼前からサビ止めが
ついているのは気付いていたらしい。でも、わざわざ口には出さなかった。
ゴリラは、夕方までそのままでいた。仕事がそろそろ終わる頃、一人の職人が
『サビ止めがついてるよ』と言った。ゴリラは気付いていたものの、いつ付いたのか分からず、
ふとズボンをめくってみた。そしたら、ゴリラの足はバッサリと切れていた。
そう。それは、本当の血のりだった。。。
ベンツのお客
バブルという泡の中で、日本人が浮かれていた時のこと。
いろんな飛込みのお客が入ってきたらしい。バイクのマフラーに穴を開けろとか、
バーベキュー用の網や鉄板を作ってくれとか。
ある日、いかにもこわそうな人が乗っているとすぐ分かるベンツが工場に入ってきた。
そして、案の定こわそうな人が降りてきて、シャチョーに『おい!鉄板作れ!』と注文(命令?)した。
シャチョーは相手がこわそうだろうが何だろうが、横柄な態度の人には横柄な態度で受け答えをする。
しかし、その時はシャチョーもこわかったのか、平身低頭な態度だった。
シャチョーは普段は鉄の加工も現場での作業もしない。工場の事務所でテレビを見ているのが仕事である。
それなのに、その時は自分で作業をした。そして普通なら出来あがったものをそのまま渡すのに、
ご丁寧に新聞紙に包み、そのベンツのトランクにまで運んで入れてあげた。
お金を取ったとしても5千円もしない鉄板になんでそこまで??? 職人たちは不思議に思った。
鉄板が出来あがり、ベンツの中で威張って待っていたお客は降りてきた。
そのお客は領収書など要らないお金を払おうとしている。
シャチョーは、そのお客にやはり平身低頭にひとこと、『4万円になります』と言った。
その、高そうなベンツに乗ったお客はだいぶビックリしたらしいが、しぶしぶ4万円払って帰っていった。
いい車に乗っていて、コワモテで、横柄な態度までとったそのお客は『負けろ』とは言いづらい。。。
その晩、4万円は職人たちのご飯代になった。
もらいタバコのおじさん
うちの工場は国道20号に面している。いろんな人が勝手に工場や事務所に入って来る。
外国人が『ワタシ シゴトサガシテル。ハタラキタイ。』って言ってきたりすることはしょっちゅうだ。
最近、よく来る人がいる。その人は『この前の道路は20号ですか?』と聞く。
『そうだよ』と答えると、『タバコを一本もらえますか?』と言いタバコをもらう…という手口を使い、
タバコをせしめているらしい。しかし、この人は自分が行った所を覚えていない!
うちの工場には合わせて6〜7回来てるのだ。1度目は職人がタバコをあげた。
が、2度目からは『20号ですか?』と聞かれると『見りゃぁ分かるだろ!』と答え、
もちろんタバコはあげない。それでもおじさんはやって来る。。。
どこの人だろう?と不思議に思っていたら、この間、センムと私が犬の散歩をしている時に
このおじさんの家(?)を見つけた。
国道の反対側に何年も前から放置されている車がある。おじさんはその中にいた。
なにげにご近所さん(?)だった。
ベンツのお客 part2
これもバブルで日本中が泡まみれになっていた時の話しである。
うちの工場は何かお店などをするにはとても立地条件がいい。なんで鉄骨屋なんてやってるんだろう?
と私が思うくらいだ。
国道の上り車線に面していて、うちの前だけ3車線になっている。高速道路のインターチェンジも近い。
地上げ屋とか、土地転がし…なんて言葉がよく耳に入った時のこと。
よくベンツに乗ったこわい人たちが来た。お金がぎっしり詰まったジュラルミンケースを持って。
そういう人は始めの内は優しげに話す。内容はもちろん『ここを売って欲しい』と言うことだ。
その話しをする時は目の前にケースいっぱいのお金を見せつける。
そして『ここで工場なんかしてたら固定資産税が…』とか話しをしてくる。
シャチョーはそんな話しはもちろん受ける気がない。でもまじめに断ると優しかったおじさんたちは
たちまちこわい人に大変身である。
そんな時、シャチョーは笑いながらこう言った。
『そこにナスが植えてあるだろ。俺の趣味はそのナスを育てることなんだ。ここを売ったら
趣味ができない。俺の趣味をとらないでくれ。趣味に税金なんか関係ない。』
こわい人たちも、真面目に話しを聞かないシャチョーが相手では話しにならないので帰っていく。
でも、シャチョーも何千万か何億か分からないくらいいっぱいのお金を目の前にされた時には
『ここを売れば左うちわの生活が…』と思って、心が揺らいだらしい…。
ところで、ナスの時期じゃない真冬にこわい人たちが来ていたら、シャチョーはなんと言って
断ったのか、ちょっと聞いてみたいのは私だけか?
侵入者
我が家は敷地内にシャチョー夫婦が住んでいる母屋、センムと私が住んでいる離れ(?って呼べるもんじゃないが…)
そして工場がある。 ある休日、私とセンムは外出してお昼頃帰ってきた。するとシャチョーから電話が…。
内線電話でかけてきてもいいのに家の電話にかかってきた。
センムは休みの日でも1日に何度か工場に泥棒が入っていないか確認に行く。
(過去に数回泥棒に入られた経験あり)
電話がかかってきた時、センムは工場に行っていたので『工場に行った』旨を伝えた。
すると数分後、工場から内線電話がかかってきた。
セ;『工場の電話、使ってないよね?』
私;『使ってないよ。シャチョーじゃないの?』
セ;『さっきシャチョーから電話があって、工場の電話の外線ランプがずっとつきっぱなしだから
どこかの受話器があがってるじゃねーかって言うから、内線全部に電話かけてる』
私は『それでシャチョーから電話がかかってきたのか…』と納得し、センムの帰りを待ったがなかなか帰ってこない。
どうしたのかと思っていたらだいぶ時間がたってから帰ってきた。
その短い時間の間になかなかすごい出来事があったみたいだった。
センムが内線の呼び出しをあちこち押していたら、職人がご飯を食べる部屋の電話が話し中だった。
その旨をシャチョーに告げるとシャチョーは家からその部屋に直行した。
センムは念の為、もう一度内線でその部屋を呼び出したらシャチョーの『てめぇは何をやってるだぁ!』
という怒鳴り声が聞こえ、あわてて鉄パイプを片手にそこに走った。どんな泥棒が侵入したのか分からないので
一応鉄パイプを持ったらしい。(ちなみにセンムは高校時代ボクシング部)
そしてその部屋に行ったらそこにいたのはシャチョーと中学生くらいの女の子だった。
その子は工場の隣に住んでいるおばあさんの孫らしい。最近ちょくちょく外線のランプがついていたのはその子が
隣の家から壁を乗り越えうちの工場に侵入し、電話していたらしい。
どこに電話をしていたのか聞いたら、自分は精神病で精神病院に電話をしていたと言う。
家で電話を使うと怒られるからここでしていたとも言う。
自分が精神病だとわかる人がわざわざ隣の会社に壁を乗り越え進入し勝手に電話を使うだろうか?
私もセンムも口からでまかせだと思っていたが、リダイヤルして番号を確認してみたら本当に電話先は精神病院だった。
その女の子は学校にも行かないので、親がおばあさんの家に来させたらしいが、
それで隣の会社に入って勝手に電話を使っているのならなんの意味もない気がする。
休みの日に『工場の見まわりに行ってくる』と言って何度か出掛けるセンムだが、
さすがに電話料金を盗まれていたのは気付かなかった。