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音楽形式【楽式】
musical forms・forms of music〔英〕 musikalische Formen〔独〕 forme musicali〔伊〕 formes musicales〔仏〕
 1.概念
音楽の形式 音楽における形式の概念は、2様の意味に解釈できる。 すなわち (a) 音素材に秩序を与えた音楽たらしめる形相的意味としての形式 (form in music 英、form in der Musik 独)であり、 これは主として美学上の考察の対象となる (b) ソナタ形式、ロンド形式などのように音楽の具体的な構造を示す意味での諸形式 (forms of music 英、musikalische Formen 独)である この2つの解釈は同一概念の内包と外延の関係にあるのであって、 それの異なった側面を意味しているのではない。 そして楽式といった場合は、通常(b)の意味、すなわち個々の音楽についての構造原理を示す意味に用いられている。 ここでは(b)について記述していくことにする。 音楽形式は楽種(室内楽、声楽などの曲の種類)や様式の概念と結びついている。 ある1つの形式は必ずある楽種に属するし、またその各々には固有の様式がある。 そして形式的な相違より楽種上の、または様式上の相違のほうがはるかに大きい音楽も少なくない。 ピアノ・ソナタと弦楽四重奏を区別するものは構成的形式よりはむしろ独奏曲と合奏曲という楽種であり、 さらにもっとも重要なことはそれぞれの様式上の相違ある。。 したがって1つの形式は多くの場合たんに1つの曲の種類を意味するものではなく、種々の分野に援用され得る。 例えばリート形式は器楽曲にも声楽曲にも用いられるし、またソナタ形式は楽器曲のあらゆる楽種に応用されている。 だから、作曲家の個人的様式が楽種や形式の様式との間に妥協点を見出したときはじめて、特定の楽種とそれにつりあった 形式が採用され、1個の作品として完成されるのである。
 2.楽式
音楽の諸形式の観念は絶対的なものではない。 これらを構成しているものは時代と共に常に変化してきているし、その本来の構造が変化を受けることすらある。 したがって次に示す諸形式も、現在ではもはや作曲されることがまれであるか、 まったく創作の対象とならないものが少なくない。 それは作曲者自身の内的欲求の変化を物語っていよう。 (1) 反復形式(repitition form 英) 反復形式とは、最初に呈示された部分に対してそれと対照的な部分が現れ、 ふたたび最初の部分がが反復されるという型が基本であり、 (a)リート形式 (b)ロンド形式 (c)ソナタ形式 (d)変奏曲形式 (e)さらに中世の歌謡形式など がそれである。 (a)リート形式 この形式は<歌謡形式>と訳されているため、歌曲の形式と誤解されがちだが、 実際には歌曲より器楽曲に用いられることが多い。 リート形式にはもっとも単純なものとしてごく短い民謡などに見られる1部形式もあるが、 主なものは ・(提示部)A−(対象部)Bの(複合)2部形式と ・A−B−(反復部)Aの3部形式 である したがってすべての形式の基本である対照と反復の原理は、リート形式においてもっとも単純な 形をとってあらわれているいえよう。 2部形式と3部形式の相違はたんに部分の数だけではない。 2部形式では2つの部分は同一の素材を用いることが多いが、3部形式ではほとんどが中間に鋭い対照部分を用いている。 また、調的には2部形式の第1部で主調→属調、第2部で属調→主調、の進行をしているのにたいし、 3部形式の各部分は各々完結しており、第1と第3は同じ調だが、 中間部では特に対照的な調(属調や関係調)が用いられている。 2部形式では17−18世紀頃の舞曲に多く見られ、アルマンド、クラートン、サラバンド、ジグ、初期のメヌエット などはまったくこれである。 3部形式は17世紀末−18世紀のダ・カーポ・アリアで確立されているが、その原理は16世紀のフランス・シャンソンに すでに見られる。 そして18世紀後半にはハイドン、モーツァルトなどによってソナタや交響曲の緩徐楽章やトリオをもつ メヌエット(第3楽章)で活用される。 また、ロマン派のシューマン、ショパンなどのピアノ小品にはこの形式が多い。 (b)ロンド形式 ロンド形式はフランスのクラヴサン楽派(クープラン)のロンドーから発展したが、 中世の声楽曲のロンドーとの関係は不明である。 ロンドは ・ABACA またはさらに拡大した ・ABACADA などの形式をもっているが、その原理は 主題部(ルフラン)Aの繰返しと、その間に 挿入部(クプレ)B,C,・・・ を入れた対照と反復の連環である。 したがって挿入部分の入れ方にいく種類かあり、時代によって異なる。 この形式は古典派ではソナタ、交響曲、協奏曲などの終楽章として用いられ、 それと共にBの部分が第2主題的、Cの部分が展開部的性質を帯びるに至ってロンド・ソナタ形式を生んだ。 (c)ソナタ形式 これは古典派およびそれ以後のもっとも重要な形式の1つで、 呈示部 展開部 再現部 の3部分から成っている。 ソナタ形式の定型的構成は 〔呈示部〕 対照的性格をもった2つの主題の対立(主調→属調または平行調)、 〔展開部〕 主題動機の展開によるかっとう(近親調への多様な転調)、 〔再現部〕 両主題の再現(主調) である。 これは性格の異なった主題の対照と反復の原理がもっとも有効にいかされた形式であり、 各部分における調関係の対比→多様→統一の過程によってさらに倍加される。 ソナタ形式の成立過程は複雑であるが、その起源は複合2部形式に求められる。 すなわち2部形式の第1部から2つの主題が性格付けられ、第2部は拡大されて展開部と再現部が 生じたのであるが、これは第2主題の対比的性格として独立化、および展開技法の発達に帰することができよう。 この形式は18世紀前半に現れ、ヴィーン古典派で完成されるが、16世紀ごろから舞曲を基にして始まった 器楽様式の真の独立としての意義を有している。 ソナタ形式は古典派、ロマン派にわたってピアノ・ソナタ、弦楽四重奏、交響曲など多くの楽曲の 主に第一楽章に用いられたが、古典派の時代の論理的形式は、ロマン派時代の自由な表現に道を譲り、 20世紀初頭まで種々な発展を見た。
※通常は〔再現部〕の後に〔結尾部:coda〕が付く。
※〔呈示部〕の前には〔序奏〕が付けられる場合もある。
(d)変奏曲形式 主題、動機が反復、再現される時に様々な変化を施すことは作曲の根本的原理であり、したがって広義には すべての曲に変奏の理念は内在している。 変奏には大別して 1)旋律自体の装飾や変化による装飾的変奏、 2)同一旋律の反復に対位法的変奏を施していく対位法的変奏、 3)主題の特徴的動機をもとに拍子、速度の異なる種々の楽想を展開させる性格変奏、 に分けることができる。 古典派までの大部分の変奏曲は1)に属し (バロック時代のドゥブル、ハイドン、モーツァルトの変奏曲など) 3)はベートーベン中期以後やロマン派の作曲家に好んで用いられた (ベートーベン≪ディアベリ変奏曲≫、ブラームス≪ハイドン変奏曲≫など)。 以上の変奏曲は、見方によって手法とも形式ともとれるが、明瞭に形式としての変奏曲は2)に含まれるシャコンヌ、 パッサカリアなどで、ここではバスのオスティナートの上に対位法的変奏が加えられていく。 バッハの≪ゴルトベルク変奏曲≫はこの大規模なものといえよう。 変奏の原理は20世紀初頭の調性の崩壊と共に、調による曲の変化、対照を補うものとして新たな局面を迎えた。 シェーンベルクとその楽派の12音技法では主題の絶えざる変奏が楽曲構築の主要因となっている。 (e)中世の歌謡形式 中世の歌曲において、その形式の素材は詩の行であり、ほとんどが詩の各節ごとに同一旋律を反復する有節歌曲である。 (ロンドー、ヴィルレー、バラードなど) その形式は例えば ロンドー(仏) 詩 ABCADEAB 旋律 abaaabab ヴィルレー(仏) 詩 ABCDA 旋律 abbaa などのように形成されている。 しかしこれらは音楽形式の自立化に伴って次第に消滅していった。 (2)連続形式(continuation form 英) この形式は対位法様式による音楽が中心となり、クレゴリオ聖歌旋律などを基礎にした定旋律形式 (cantus firmus form 英)と、さらに、発達した主題とその模倣を骨子とする模倣形式(imitative form 英)とに 分けられる。 しかし対位法様式によるものは変奏曲の場合と同じく、形式と手法との区別は判然としない。 これは連続形式すべてにいえることである。 (a)定旋律形式 定旋律形式はグレゴリオ聖歌を1声部に定め、他の声部がこれに対位法的に加わっていく手法によるものを意味する。 しかし9−10世紀の平行オルガヌムのように、対位法の弦ではあるが、まだきわめて原始的なものも含んでいる。 グレゴリオ聖歌の定旋律によるものには前記のオルガヌムの他クラウズラやモテト(13−14世紀)、ミサなどがある。 世俗的旋律(ロム・アルメ、L'homme armeeなど)を定旋律としたフランドル楽派の曲やプロテスタント・コラールを低旋律 とするオルガン・コラールは、定旋律を用いているとはいえ、模倣的対位法様式が確立しているため、次の模倣形式 に入れるべきであろう。 (b)模倣形式 16世紀のモテトやポリフォニック・シャンソン、およびマドリガルなどのア・カペラで歌われる多声歌曲や、 それから発生した器楽曲のリチェルカーレ、カンツォーナなどの模倣的対位法による諸形式はすべてこの分類に入る。 しかしもっとも重要な形式は17世紀の終わりごろに現れたフーガであり、これはポリフォニーのそれまでの歴史における 1つの頂点をなすものであろう。 リチェルカーレはそのほとんどがいくつかの主題を順次発展させていたが、フーガは唯一の主題から全体を構築して行く。 このようなリチェルカーレからフーガへの発展は、1つの主題による構成的統一への希求の結果と見ることができる。 フーガを大成させたのはバッハであるが(≪平均律クラヴィーア曲集≫≪フーガの技法≫)、これはソナタ形式のような 意味での各部分の配列が予定された形式ではなく、主題の性質によって形式が生成されるのである。 (3)連環形式(cyclic form 英) 2つ以上数個におよぶ楽章が、たがいに関連を保ちながら1つのまとまりを形づくるような形式で、単一楽章の曲、 トッカータ、ソナタ(交響曲、協奏曲、弦楽四重奏曲などを含む)など、また声楽曲ではカンタータ、ミサ、 オラトリオなどを指し、オペラの場合ヴァーグナー以前のいわゆる<番号オペラ>(number opera)がこれに含まれよう。 このような曲の各楽章にはこれまで挙げた諸形式の多くが用いられる。 楽章間の対照は各楽章の形式や速度によっており、組曲や前古典派ソナタの緩・急・緩・急の楽章配置はそれを物語っている。 古典派のソナタの各楽章はそれ自体、緩急の対照、形式的対比と統一を巧みに用いた例である。 オラトリオやオペラではテクストに従いながらも、独唱(アリア、レチタティーヴォ)、重唱、合唱の対比によって 多彩な効果を用いる。 しかし一定の配列によらず、総体が1つの曲になるような小品集(シューマン≪謝肉祭≫、シューベルト≪冬の旅≫など) もこれに含めてよい。