胃・十二指腸潰瘍の原因となるピロリ菌
20世紀最後の発見!?
胃の中に細菌がいた!

 健康に興味のある人なら「ピロリ菌」という名前を聞いたことはあるのではないでしょうか。自然界では休眠状態となるのに、胃の中に入ると元気になるという細菌です。そもそも胃の中には強い酸性の胃酸が分泌されています。ですから、胃の中で細菌は生きることができないというのが従来の常識でした。ところが、1983年医学界に大激震が走りました。これまで無菌であると考えられていた胃の粘膜から、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)という細菌が発見されたのです!

 その後の研究で、ピロリ菌が胃・十二指腸潰瘍の発症に大きくかかわっていることがわかりました。もちろん、胃・十二指腸潰瘍の原因はピロリ菌がすべてではなく、喫煙やアルコール、心身のストレスなども原因となります。ただ、胃・十二指腸潰瘍にかかっている人の何と約90%にピロリ菌の感染がみられるというのです。

除菌すれば高い確率で再発を防止できる

 胃・十二指腸潰瘍の発症が喫煙等によるものであるとはっきりわかっているときは、それを取り除き、胃酸分泌を効果的に抑える薬(ヒスタミンH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬など*)を服用すれば短期間で治ります。
 しかし、何度も胃潰瘍を繰り返し慢性化している場合は、ピロリ菌を取り除くことが効果を発揮します。実際、完全に除菌すると胃潰瘍で80〜90%、十二指腸潰瘍でほぼ100%が再発しないという結果が出ています。また、この除菌治療は胃・十二指腸潰瘍の患者が対象ですが、胃の痛みやもたれ感など胃炎症状の強い人、胃がんで手術または内視鏡治療を受け胃の残っている人、一部のリンパ系腫瘍の人でそれぞれピロリ菌に感染している場合にも対象となることがあります。

数種の薬を1〜2週間飲むだけで除菌は完了。
この簡便さも利点かも

 除菌をする前に、胃がんではないかを確認するために内視鏡検査が行われます。胃がんでないことが明らかになれば、いよいよ除菌治療となります。といっても胃を切るといった外科的な治療ではなく、薬を飲むだけといった簡単なものです。ただし、除菌治療は、ピロリ菌が発見されてからそれほど年月がたっていないこともあり、実はまだきちんと確立していません。現在のところ、胃酸の分泌を抑制するプロトンポンプ阻害薬(PPI)と2種類の抗菌剤、それに胃粘膜保護薬を加えた計4種類の薬を併用する方法が一般的に用いられています。服用する期間は1週間または2週間です(医療機関によって異なります)。
 治療後、完全に除去されたかどうかをみるための検査が行われます。検査は、血液を採取し、その血液から血清を取り出して、そこにピロリ菌を培養してつくった試薬を入れて、ピロリ菌の抗体があるかどうかを調べます。あるいは尿素呼気試験を行う医療機関もあります。具体的には、呼気採取パックに呼気を吹き込んだ後、炭素13を入れた尿素溶液を飲み、左側を下にして5分間横になり、さらに12〜13分間座った姿勢をとります。そして新しい呼気採取パックに呼気を吹き込みます。尿素はもともと胃内に存在するもので、炭素13は放射線がでない炭素原子で、いずれもからだに害を及ぼすものではありません。

下痢の副作用が出る人が約半数、胸やけも出ることも

 どんな治療でも患者さんが最も気になるのが副作用ではないでしょうか。除菌治療においても副作用を完全に避けることはやはりできません。薬が腸の中にいる善玉菌も殺してしまうので、約半数の人に下痢が起こります。下痢の程度は軟らかい便から水のようにたらたらとした便まで人によってさまざまです。たまに、ペニシリンアレルギーが出たり、下痢がひどくなって血便が見られることもあり、こうしたときはすぐに除菌治療は中止され、それぞれ副作用に対する処置が行われます。また、除菌治療後に胸やけを起こす人もいます。

*注)ヒスタミンH2 ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬:薬の種類の名前です。製品名ではありません。