アルコ35


我ながら荷が重過ぎるが、アルコ35というカメラのレポートをしてみたい。
普通サイズのカメラにはあまり思い入れがなかった私だが、このカメラは潜望鏡のような補正ファインダーを付けたときの外観や箱の佇まいが美しいと思って気に入っていたモノの一つであった。

昔、あるヴィンテージ・カメラ・コレクターの方に所有品を見せたことがあり、その時アルコ35をえらく誉め、言い値で譲ってくれとまで言われた。
アルコ35と言っても改良型のアルコ35オートマットは比較的在って、今回の初期型はレアものであること、そして使い勝手の良さと相まって意外に多くのコレクターが探している隠れたアイテムなのだそうだ。
それだけではない、「ビューアルコ」という独創的なアダプターを付けるとまるで2眼レフのような使い方が出来たためコレクター魂に火をつける珍品・変り種として渇望されるものだったのだ。

それでは、レポートをはじめよう。
アルコ写真工業は、初め写真用品製造会社であった(1946年創業)が、1952年カメラ製造に進出し、アルコ35を発売した。私のは、昭和29(1954年)年8月30日の検印があるので後期の製品になる。
その後も自動化を推し進めた改良型や普及カメラの製造をしていたが、8mmカメラに切り替えた。その結果今では8mmカメラのメーカーという方が一般的な認知かもしれない。現在ではハイテク企業となっている。

たまたま私が所有している未使用・新品の一つだが、操作は女性でも簡単に出来る優れものだ。

潜望鏡のようなモノは、接写の時パララックスを補正するファインダー
ゆえ横から見ると角度が付いているのが判る。
レンズの上のネジ穴は下写真のビューア
ルコを取り付けるためのもの。

このカメラが物真似でなく独創的と言われる所以は、ユニークな機構を積んでいたからである。
即ち、スプリングカメラのように見える蛇腹式であったのは、レンズの繰り出しに有利だったからであり、無限大から最短14寸(35cm)まで寄ることができるもので、その際距離計とも連動し、3尺以下14寸までは接写用具なしに撮影できる優れた点があったからだ。
当時の普及カメラで接写するには接写用のレンズを付けても1mぐらいの距離が一般的だった。

アルコによる接写(3尺以下14寸まで)でも、レンズとファインダーとのパララックスは顕著になるので、別に補正のためのファインダーが付属していた。これが潜望鏡といっていたものだ。これを付けても自動的に補正されるのではなく手動によるものだった。
パララックスとは、視差のことであり、デジカメで接写する場合、ファインダーで合わせると写したいところが蹴られてしまう経験がありませんか?だから、接写の場合、モニターで写る範囲を確認するでしょ。

現在ではこの補正ファインダーも中々見つからないモノだそうなので大事にしなければならない。

このようにアルコ35は、材質等作りが高級感に満ちているものではないが上等な部類で当時の中堅高級普及機と言って良いものだ。大卒の初任給が1950年代は5000円〜1万円の時代にアルコ35は27700円だから、安いものではなかったことが理解していただけよう。


裏ブタを開けたところ。 私は持っていないが、ビューア
ルコを取り付けた状態、本当に
不思議な姿だ。

アルコ35のスペックは以下のようなものだ。

レンズ コリナー1:2.8f 50mm(5枚構成)
シャッター セイコーシャラピッド B.1〜500
シンクロ接点 独逸式 X接点(0接点)
アルコ35本体 卸値22400円 定価27700円(昭和28年6月服部時計店光学部卸商報より)

シャッターは、レトロなシャッター巻き上げレバーのあるもので、シャッターボタンとは別にレンズ部分でシャッターを切れた。それゆえ巻取機構と関係無しに簡単に2重露光を可能にしている。

アルコ35付属品(昭和30年12月発行のハルナ商報より抜粋)

アルコマガジン      卸値370円 定価530円
レンズフード        卸値370円 定価530円
レンズフード皮ケース  卸値112円 定価160円

ビューアルコ       卸値5440円 定価6800円

私は持っていないが、マニアが欲しがる「ビューアルコ」を取り付けると本体のレンズの動きに連動してビューアルコのファインダーもフォーカスした。その際パララックスも自動補正されるだけでなく単独に絞りも備えているので焦点深度の確認もでき見掛け倒しではなかったのである。
しかし、上写真のように取り付けた状態は奇怪な姿となるのである。

従って、35mmフィルムを使うアルコ35は触ってみると操作もし易く女性でも使いこなせるカメラなので、何時か実際に撮影に使ってみたいと思っている。


アルコ35の愛用者カード 取説と検査証など、値段は27700円、
昭和29年8月30日の検印

アルコ35の純正皮ケースとカメラ用の皮ストラップ

作成日2005年9月